大判例

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広島地方裁判所 昭和51年(ヨ)80号 判決

昭和五〇年(ヨ)第二六五号事件

申請人

足門邦治

外一〇七二名

昭和五一年(ヨ)第八〇号事件

申請人

天野和雄

外一二六名

申請人ら訴訟代理人

田坂戒三

阿佐美信義

相良勝美

外一八名

両事件被申請人

広島市

右代表者市長

荒木武

被申請人訴訟代理人

宗政美三

岡咲恕一

被申請人指定代理人

佐々原健

外七名

主文

被申請人は、広島市安佐南区沼田町戸山大字阿戸の別紙第一図面において一点鎖線(―・―・―線)で囲まれた部分の土地上においてゴミ埋立処理場の建設工事に着手してはならない。

申請人らのその余の申請を却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

事実(両事件共通)

第一 当事者の求めた裁判

一 申請の趣旨

1 被申請人は、ゴミ埋立処理場を広島市安佐南区沼田町戸山大字阿戸の別紙第一図面において一点鎖線(―・―・―線)で囲まれた部分の土地上に建設する目的で、測量等の準備作業を行い、又は同建設工事に着手してはならない。

2 広島地方裁判所執行官は前記土地に適当な方法で前項の掲示をすること。

3 申請費用は被申請人の負担とする。

二 申請の趣旨に対する答弁

1 本件申請をいずれも却下する。

2 申請費用は申請人らの負担とする。

第二 当事者の主張

一 申請の理由

1 当事者

(一) 申請人らは、広島市安佐南区沼田町戸山(以下、戸山地区という。)の住民であつて、戸山地区の中央部を貫通する吉山川及び県道の両側の集落(五六二戸、人口二三三三人)に居住して農林業等を営んでいる。

(二) 被申請人広島市は、同市北西部にある戸山地区のほぼ中央部に位置する申請の趣旨第一項記載の土地(以下、本件予定地という。)に同市のゴミ埋立処理場(以下、本件施設という。)を建設することを計画し、昭和五〇年七月、別紙二「北部埋立地基本計画書」を、昭和五一年一〇月、別紙(三)「北部埋立地修正計画書」をそれぞれ策定・公表し、右修正計画書に従つて、本件施設を建設し稼働させる予定である。

2 本件施設の概要

本件施設の概要は、右「北部埋立地基本計画書」3及び右「北部埋立地修正計画書」Ⅰ及びⅡ各記載のとおりとされている。

3 戸山地区の自然的社会的環境と予想される被害

(一) 現在の環境

(1) 戸山地区は、広島市の中心部から直線距離で約一二ないし一五キロメートルの近郊に位置しているが、その全体の約八五パーセントが山林、約一五パーセントが耕作地として利用されている純然たる農山村地域である。

(2) 前記吉山川は、「水質汚濁に係る環境基準について」(昭和四六年環境庁告示第五九号)別表2「生活環境の保全に関する環境基準」の「1河川(1)河川(湖沼を除く。)」にいうAA類型に属し、生態系についても汚染に最も弱いとされているヤマメ等が棲息する清流であつて、戸山地区の住民は、同川の伏流水を井戸、湧水、山水によつて取水し、飲料用水等の生活用水にしているばかりでなく広大な田畑の灌漑用水もすべて同川に依存しており、さらには同川が子供達にとり絶好の遊び場となつているなど、同川と密着した生活を営んでいる。

(3) 戸山地区の大気は、総面積約二八五〇万平方メートルに及ぶ杉・ひのき・赤松・もみ・つが等の混淆林の樹木による炭酸同化作用によつて極めて清浄に保たれている。このため都心から戸山地区を訪れる人は、空気がうまいと感じる。本件予定地の面積六五万平方メートルは、これを杉林とすると五二〇〇人分の呼吸に必要な酸素を排出する計算である。

(4) 戸山地区の気候は寒冷で、一年間の降雨量は約二〇〇〇ミリメートルであるが、六、七月に降雨が多く月差が大きい。気温は、一月においてはほとんどセ氏零度以下で、最低気温はセ氏零下一四度を記録したことがある。

次にここでは逆転現象(下層が低温で上層が高温となり垂直気温傾度が逆になる現象。)によつて大気が上空に拡散しないまま、低温帯である谷間及び集落周辺に停滞するという特有の現象がみられる。

(5) 本件予定地内には三つの谷があるが、そのうち北側の二つ(別紙第一図面で緑で着色した範囲のうちの北側部分に存在する。)は鋭角的に屈曲し、基盤はカコウ岩で組成され、上に乗つた地質は砂と細かいシルト(沈泥)で透水性の高い崩落性のマサ土(白色・淡灰色・淡褐色カコウ岩が風化分解した砂。)であつて、堆積物はほとんどなく、もう一つの一番南の谷(別紙第一図面で緑で着色した範囲のうち南側の部分に存在する。)は破壊作用を受けたカコウ岩岩盤で砂礫が厚く堆積しており透水性は高い。

また、断層は、東北・西南方向と北北西・南南東方向の二系統があり、申請人ら住民が居住する本件予定地東南の平地は断層破砕帯である。

(6) 戸山地区の小中学校児童生徒は、県道を通学路としているが、その幅員は狭いところでは約三メートルである。

(二) ゴミに含まれる有害物質とその人体に与える影響については別表記載のとおりである。

(三) 先行埋立地における被害状況

被申請人の後記先行埋立地の被害状況の検討は次のとおりであつて、これによれば本件予定地においても同様の被害が予想されるものである。

(1) 産業廃棄物に関する埋立処分の基準として現在我が国では「有害な産業廃棄物に係る判定基準を定める総理府令」(昭和四八年総理府令第五号)があり、判定に際しての有害物質の検定については「産業廃棄物に含まれる有害物質の検定方法」(昭和四八年環境庁告示第一三号)において環境庁長官がその方法を定めているところであるが、一般に、各種の汚染調査を実施するについては、検体の検出方法、時期、期間にも配慮すべきであるほか、検査方法によつては異なる検査結果をもたらすことに留意すべきである。また、廃棄物が環境にもたらす汚染については定型的定量的な検査予測方式が確立されていない。かかる状況の下では科学的に予測されるすべての危険性に対して、回復不可能な被害結果をもたらさぬよう詳細かつ綿密な科学的点検をすることが必要である。

(2) 先行の埋立地と被申請人において計画している本件予定地の各買収面積、埋立面積、埋立容量、埋立年次及び谷の状況を対比すると左表のとおりである。

概要

買収面積

(ha)

埋立面積

(ha)

埋立容量

(万m3)

埋立年次

(年・月)

谷の状況

地区

戸坂

9.17

5.3

94

42.11~46.8

直線単純

三滝

18.9

7.6

112.4

46.9~51.3

東谷、西谷の

二か所

瀬野川

68.8

21.0

150

49.5~継続

樹枝状

北部

65.0

34.0

116

53.9~一〇ケ年

樹枝状、瀬野川

より複雑

(3) 水質汚濁について

ア 三滝埋立地

被申請人によると、三滝埋立地処理水の水質検査(三一回)結果は、すべて水質汚濁止法(昭和四五年法律第一三八号)及び「排水基準を定める総理府令」(昭和四六年総理府令第三五号)に定める許容限度以下であり、また、井戸水については、水道法(昭和三二年法律第一七七号)及び「水質基準に関する省令」(昭和四一年厚生省令第一一号)所定の基準に適合する、という。

しかしながら右処理水の検査について、右総理府令別表第一及び第二に掲げられた全項目について検査したのは初期の一三回のうち二回にすぎず、その外の場合は、水素イオン濃度(以下、PHと略称する。)、生物化学的酸素要求量(以下、BODと略称する。)、化学的酸素要、求量(以下、CODと略称する。)、浮遊物質量(以下、SSと略称する。)及び大腸菌群数の五項目に限られ、さらに測定値と採取日時、天候状況等との相関関係についても意識的な検討がなされていない。次に、その結果については、PH値は全検査において許容限度の上限(8.6)に近く、これを超えたこともあり、BOD(許容限度一六〇PPM。PPMは一リットルあたりのミリグラムを示す。)は最小13.7PPM、最大四九〇PPMというようなバラツキが見られ、COD(許容限度一六〇PPM)は常に許容限度を超え、時にはその三倍以上のこともあり、SS(許容限度二〇〇PPM)は最小三PPM、最大二三五PPMというバラツキを示している。

次に、付近の民家では、井戸水が使えなくなつてもらい水をしたり、井戸水で飼育していた金魚、ニワトリ、文鳥といつた動物が腫瘍の発生や背骨の奇型で死亡する等しているが、これらは三滝埋立地からの廃汚水の影響によるものと推論すべく、さらに昭和五二年九月の調査において、15.6PPMのマンガン(水道法及び前記厚生省令では0.3PPM以下であることが要求されている。)を検出し、色度四三度(同法及び同省令では五度以下であることが要求されている。)を示した井戸水の例がある。

イ 瀬野川埋立地

広島大学公害研究グループ(以下、公害研という。)の調査によれば、周辺のボーリング井戸水は鉄、マンガンの含有量が水道法及び前記厚生省令に定める基準を著しく超えている。

また、埋立地下底部分中硬岩(岩盤強度をあらわす一つの尺度)部分では、ある程度周辺に地下水汚染が進行している。即ち、破砕部に沿つて地下水の流動が起り、割れ目に汚水が浸出している。(後記プランドは後記修正診断において、これに対して、マサ土の転圧による不透水面の造成等の対策をあげているが、いずれの対策もその汚水浸出防止効果は極めて不十分である。)

ウ 戸坂埋立地

牛田及び戸坂浄水場取水口における水質汚染が明らかとなつている。

(4) 大気汚染について

ア 戸坂埋立地

昭和四八年一〇月、埋立跡地を利用して造成した戸坂中学校の校庭に地割れが生じ、ここからガスが噴出するという事態が発生したが、昭和四九年二月に行われたガスの分析結果によると、約六〇パーセントのメタンガスの外、硫化水素、メチルメルカプタン等の有害物質を含み、引火性を有し都市ガス以上のカロリーを有する極めて危険なものであると判明した。

さらに、大気中の光化学オキシダント、いおう酸化物及び窒素酸化物についても、公害対策基本法(昭和四二年法律第一三二号)に基づく「大気の汚染に係る環境基準について」(昭和四八年環境庁告示第二五号)別表に掲げられた環境基準を超える日があり、そのため戸坂中学校生徒に対し、水泳及び外出禁止措置が採られたこともあり、またその教室には空気浄化装置を設置せざるを得ない状況で、校庭の並木も枯死した。

また、埋立後の跡地利用として計画されていた戸坂新町小学校建設も断念されている。

イ 三滝埋立地

悪質及び有毒ガス噴出の問題が発生している。即ち、悪臭により食事等日常生活に支障があり、現に健康を害した住民もおり、ガス抜き管は埋設してあるものの噴出するガスの燃焼によつて消防車発動という例さえある。また、松も枯れ、付近にはめつきり緑が減少した。

ウ 瀬野川埋立地

ここでは生ゴミの搬入はできないものと規制されているにもかかわらず二酸化イオウ、二酸化窒素、硫化水素、メタン、トリメチルアミン、メチルアミン等を含有する生暖かい悪臭のひどいガスが発生している。

(5) 環境破壊

ア 三滝埋立地

アブラムシ、ハエが異常に発生しているほか、鳥、ネズミ、野犬が群集して多くの被害が発生している。

従前見られた螢、カニの姿が見受けられなくなり、川の汚染が進行している。

埋立地周辺では、ゴミ搬入車両の振動により家屋が損傷されたほか、右車両から落下するゴミによつて街路が汚され、また浮塵子やブヨ類の発生のため同地区に人が長時間佇立することは困難である。

イ 戸坂埋立地

前述のとおり、戸坂新町小学校の新設が中止されるほど環境汚染が進行していた。

(四) 被申請人のゴミ処理行政の問題点

(1) 一般的問題点

被申請人広島市においては、従来、他都市では企業自ら処理している廃棄物を、土砂瓦礫等をも含め、被申請人において肩代り処理してきていること及びその処理につき安易に埋立処理に依存してきていること等ゴミ処理行政一般について問題がある。

(2) 先行埋立地に対する被申請人の行政対応等の実状

ア 戸坂埋立地

戸坂埋立地においては前記のとおり戸坂中学校々舎の空気浄化装置の設置、小学校新設の中止のほか、右中学校生徒の定期健康診断及び同校卒業生の追跡健康診断の実施がそれぞれなされてはいるものの、抜本的措置は未だ講じられていない。

イ 三滝埋立地

被申請人は、当初埋立地開設の際は、瓦礫のみを搬入すると説明していたがこれも虚偽で、開設後は生ゴミ等も搬入されていた。また埋立開始にあたり町内会の一部役員の同意を取り付けたのみで広く地区住民の同意を取り付ける努力をしていない。また、埋立開始後は住民の要求によつて野犬狩、道路清掃をする程度で、悪臭対策はなく、水質汚濁対策としては住民に費用を負担させて上水道を設置したことの外、実効性に疑問のあるオゾンによる水質浄化装置を設けたにとどまる。

なお、搬入期間は当初の予定より四度にわたつて延長されている。

次に、ここでは断層破砕帯の存在の可能性があるのに、住民及び科学者らからの調査要求に対しても、年に一回程度の井戸水調査結果を提示しているに過ぎず、抜本的措置は何もなされていない。

ウ 瀬野川埋立地

被申請人は当初住民に対し、土砂、瓦礫のみの搬入と説明しておきながら、現実には建築廃材、家具電気製品類の粗大ゴミ等あらゆるものを搬入している。

広島市議会は、同市安芸区瀬野川町及び広島県安芸郡海田町の各町民の同意を取り付けるよう附帯決議をしていたが、被申請人は右同意を得ようとする努力さえしていない。

また、昭和五〇年八月以降は搬入管理システムを採用しているとされてはいるものの、形式的な管理にすぎず、その効果はあがつていない。住民からの地質調査データの提出要求に対しても、一部のデータを公表したにとどまる。地下水汚染の調査のためボーリング井戸も掘られているが、それはその標高及び位置から考えて汚染調査には著しく不適切かつ非科学的である。

(五) 戸山地区において予想される被害

(1) 水質汚濁

前記のとおり、戸山地区の住民の生活は自然水に依存するところが大きい。

しかるに被申請人が建設を予定している本件施設からの処理水によつて吉山川が汚染される蓋然性が極めて高いことと、前記戸山地区の地質及び瀬野川埋立地における水質汚濁の実例等から考えると、戸山地区において建設廃材や家庭焼却不適ゴミ等を主としつつも焼却灰や一部生ゴミ等を埋め立てた場合には、断層破砕帯が存在するため、その地下水の汚染をもたらす危険もまた高いと言わねばならない。

被申請人は埋立地内に独立の区割を設けて相当多量の焼却灰を埋め立てる予定であるが、固型物を直接埋め立てる場合に比べ焼却して残灰を埋め立てる方がより安全であるとは一概には言うことができず(埋立容量が一定であれば、焼却灰にして埋め立てる方がその中に含有される有害金属類等の濃度は却つて高くなる。)、このため農地・林野の土壌汚染ひいては稲・野菜等の農作物及び飲料水を通じて人体に与える悪影響が予想されるのである。

(2) 土石流による被害

本件予定地内にある前記一番南の谷は土石流の多発した歴史を持ち、しかも谷のふところが深いため大きな土石流が発生する可能性が高い。また、その上の山(別紙第一図面で赤丸を付した地点付近)は古生代の固い変成岩によつて覆われているため風化がなく、周辺のカコウ岩の風化によつて絶えず傾斜が急になつて行くという特性がある。

本件施設建設は森林の伐採を伴うので、土石流の発生を容易にすることになるが、ひとたびこれが発生すれば、本件施設を破壊し、汚染物質を拡散させるおそれもある。

(3) 大気汚染

本件施設近辺には、民家三戸及び戸山小中学校があり直接的な影響が考えられるほか、戸山地区特有の前記逆転現象によつて汚染された大気が長時間停滞するため、その拡散による稀釈はあまり期待できない。

(4) 環境破壊

前記各先行埋立地の場合におけると同様の被害とゴミ搬入車両による交通問題発生が予想される。

(六) 「広島市北部埋立事業に関する修正診断報告書」(疎乙第四八号証。以下、修正診断という。)について

修正診断は被申請人が委託した株式会社プランド研究所(以下、プランドという。)作成に係るもので、前記「北部埋立地修正計画書」を診断評価したものである。

(1) プランドは、営利を目的とする法人であつて、被申請人の前記一連のゴミ行政を「十分に対応した」と評価していることにおいて端的に示されているように、被申請人とともに本件施設建設を推進することが直ちにその収益につながるという立場にあるものである。

(2) 修正診断では、本件予定地に対する被申請人の行政対応をもつて、中央公害対策審議会防止計画部会環境影響評価小委員会中間報告「環境影響評価の運用上の指針」の先取と評価しているが、同報告において重要な事項として示された代替地の比較検討については、行政手続が確定していないのでその実施は困難であるとする等、実体を伴わない美辞麗句が散見される。

(3) 修正診断で示された環境保全対策の多くは、具体的な計画、科学的なデータ若しくは技術又は財政の裏付けを欠き、技術的な裏付けがある部分についても、当該技術の有効性の検討はなされていない。例えば、戸山地区住民の大部分が本件申請人となつているのに「本件予定地が適地である。」としていたり、前記戸坂埋立地跡地利用としての戸坂中学校について「学校環境としての立地性は優れている。」と表現している点等である。

なお、修正診断では、生物化学的脱窒素活性汚泥法を中心とする汚水処理施設を設置することとしているが、そのためには生物バクテリアの活性が十分に生かされなければならないところ、前記戸山地区の気候に鑑みると、少なくとも冬期においてはかかる汚水処理施設の稼働は不可能であるから、水質汚濁の蓋然性は高く、同時に本件予定地がかかる処理施設に適さないことも明らかである。

(4) 修正診断では、戸山地区住民の前記自然水依存状況については何らの検討がなされておらず、僅かに、前記吉山川の汚水処理負荷による影響について「農業用水利用、魚類の棲息、住民の感覚(色度)」をあげるにとどまり、住民の生活の実態に目が向けられていない。のみならず、先行埋立地との比較検討においても戸山地区の特質は顧みられていない。

また、前記三滝埋立地周辺の井戸水の調査も行わず、瀬野川埋立地において採用されたゴミ処理に関する手法の有効性についての経験的及び科学的分析も怠つている。

4 本件施設に関する行政手続上の問題点等

(一) 合併条件違反

戸山地区は旧安佐郡沼田町の一部として昭和四六年四月一日被申請人広島市に合併されたが、これに先立つて昭和四五年一二月二日、同市及び右沼田町の合併協議会は「広島市沼田町合併建設計画書」を策定しているところ、そこでは本件予定地は「緑地・レクリエーション」地域とされており、さらに昭和四七年二月開催の第三七回市長をかこむ会「沼田地区の住民と語る」の席上、当時の広島市長山田節男は、「将来の沼田町は文教地域にすべきであり、公害の伴うものが立地されるべきではない」旨言明している。

従つて本件施設の建設はこれらと全く背馳するものである。

(二) 用地選定の不合理性

(1) 被申請人によると、ゴミ埋立処理場の用地選定の基準は、地形が埋立に適していること、公害が少ないこと及び用地確保の見込があることの三つとされているが、後出の他の候補地を抑えて本件予定地が選定された合理的な理由は最後まで示されていない。

そしてまた本件予定地については、申請人らの対応からみて右の第三の要件を欠くことも明らかである。

(2) 被申請人は一二か所の候補地をあげているが、いずれも一見して不適当な土地ばかりであつて到底「候補地」の名に値しない。

被申請人には、別に四か所(高陽町大谷、可部町大林、安佐町長沢、沼田町瀬戸)の真実の候補地があり、右四か所はいずれも右三つの要件において本件予定地に優つていることは明らかである。

右四か所のうち、沼田町瀬戸の土地については、それが伊藤忠不動産株式会社の所有地であるところ、昭和五〇年一月同社から被申請人に対し、右土地をゴミ埋立処理場用地として提供され、被申請人は一旦その使用貸借契約まで締結しながら、昭和五三年三月何故か右契約を破棄している。にもかかわらず、被申請人は本件予定地を唯一の適地であるとして譲らない。

(三) 本件予定地選定に至る経緯

本件予定地は、昭和四八年八月ころ、油谷重工株式会社がゴルフ場建設予定地として各所有者らとの間で一坪五三〇〇円で買い受ける契約をし、合計一億二千万円余の手附金を支払つた物件の一部であるところ、同年末ころまでにそれがゴルフ場用地としては不適当であることが明らかとなり、同社は右手附金の回収に苦慮していた。そのころ、被申請人も昭和五〇年三月までには三滝ゴミ埋立地が埋立の限界に達するとの予測のもとに、これに代る新たな埋立用地を探しており、そこで被申請人と同社との間で、被申請人が本件予定地を買収し、右手附金相当額の利益を同社に与え、さらに同社の買い受けた土地で本件予定地に含まれない部分についても右手附金相当額以上を被申請人において肩代りする旨の密約が結ばれた。被申請人が本件予定地に固執するのはこの密約があるからである。

(四) 環境影響事前評価(以下、環境アセスメントという。)の欠如

(1) 環境アセスメントの理念

企業の工場立地又は各種公共事業の実施にあたつて、予め環境アセスメントを行うべきことは、いまや国民的合意であると解されるが、その理念は、第一に当該事業の安全の保障であつて、そのためには環境アセスメントを行う時期及び当該時期における計画の熟度に対応した安全率に対してそれぞれ配慮がなされるべく、また、その科学的限界を見極めるとともに、広く知識及び情報を収集することが必要とされる。第二に、環境アセスメントは、住民意思に基づく民主的決定と被害関係住民の同意を中心とすべきであつて、このことは、環境アセスメントが単に公害防止のみの観点からなされるべきものではなく、当該地域の現在及び将来の環境質を地域住民の意思に基づいて設定したうえで、当該事業がその地域の土地の適正な利用計画に適合するものであるか否かを地域住民の総意に基づいて決定するためにこそなされるべきことを意味する。第三に、環境アセスメントの全過程及び内容は、詳細かつ平明で、住民の意思決定に資するものでなければならない。本件との関係では、特に、①現在の自然的社会的文化的環境、②事業の実施に伴う直接的間接的影響、③環境への影響のうち、避けがたいものと回復しがたいもの、④代替案(当該事業計画の中止又は延期案、異種及び同種代替案又はその組み合わせ並びに各案の影響の比較)の提案が、調査及び評価項目中に含まれることが要求される。

(2) 被申請人は、本件施設建設につき、環境アセスメントを実施していない。

即ち、被申請人は、本件施設がその周辺環境に及ぼす程度・範囲の予想・評価及びその公表と住民の意向の打診さえ行つておらず、さらに代替案との比較検討については全くなにもなされていない。また、先行埋立地におけるゴミ埋立の影響についての総合調査をも欠いているのである。

被申請人は本件予定地について、「北部埋立事業計画に関する用地周辺環境の一次診断と埋立実施設計に関する基本方針の検討」(以下、第一次診断という。)を行い、第二次環境調査を実施しようとしたところ、申請人らに実力をもつて妨害された旨主張するが、右第一次診断、第二次環境調査のいずれも前記環境アセスメントの理念には程遠く、単に既定の方針である本件予定地に本件施設を建設するための準備作業の一環とみなすほかはない。

(五) 被申請人の強権的な工事推進政策と応訴態度

被申請人が昭和四九年七月本件予定地にゴミ埋立処理場を建設することを決定してからの経緯は次のとおりである。

(1) 昭和四九年一〇月一一日

養老会の反省等のため、沼田町連合町内会役員会が開催せられた折、広島市役所沼田支所長よりゴミ処理場建設計画が初めて発表せられた。

その際、当時の連合町内会会長でかつ地主会の会長でもあつた荒木清は、これに先立ち、すでに九月三〇日に支所長より申し入れを受け、地元では、地主代表五名、地元代表七名の計一二名がゴミ処理先進地を視察する旨計画されているので、単位町内会より各一名宛参加して欲しい旨町内会に要請した(なお、連合町内会とは、昭和四七年に組織されたもので沼田町が広島市に合併されたとき、暫定的に沼田町選出市会議員がおかれたものの同年より地元市会議員が存在しなくなるため、沼田町住民の意向を市政に反映させるべき下意上達の機関を失うことを懸念し町民の意向により設置された住民の自治機関で、沼田町内を五つの町内会に区分し、その下に一五の部落が組み込まれている。)。

(2) 昭和四九年一〇月二七日〜三〇日

三泊四日で視察団は、金沢、京都等市当局のいう先進地を市の定めたスケジュールに基づいて視察した。

この視察団は、一七名のうち、町内会長等を務めていた者を入れると建設予定地所有地主は、一四名に及ぶという構成であつた。

(3) 昭和四九年一一月二日、同月二六日

沼田支所長出席の下に、視察団反省会が催され、先進地視察の結果を各参加者に対してアンケート調査のうえ、ゴミ埋立場受け入れを前提として、前向きの意見に統一して欲しい旨強い要請があつたものの、一部に視察先と戸山とでは地理的環境的条件が著しく相異するため安易に受け入れることは危険である旨の発言が存したため、統一意見にまでは達しなかつた。しかしすでにこのころ、三滝埋立地は昭和五〇年三月に満杯になるため、戸山には、昭和五〇年四月より搬入埋立処理を開始したい旨の計画を市当局は一方的に発表していた。

(4) 昭和四九年一二月八日

町内会役員、組長、各種団体長と支所長との合同会議。

これまでにも、連合町内会役員の一部には計画を広く住民に発表のうえ検討してもらうべきであるとの意見を述べる者がおり、これに対し市当局は、未だ発表の段階ではない旨固執して来たものの、ここにおいて若干説明対象を拡大し岡田沼田支所長はこの席でプリントに基づいて具体的建設のための概要等を発表説明した。

この時は反対意見も出され、処理場受け入れの統一意見とはならなかつた。

(5) 昭和四九年一二月一六日

広島市議会において、本件施設設置の調査委託費三〇〇〇万円を議決のうえ予算計上。但し、市議会審議は「地元住民の了解を得て予算執行」との条件付可決であつた。

(6) 昭和四九年一二月一七日

戸山生活環境を守る会結成。

ゴミ処理場建設問題について一部の土地所有者のみを対象として住民不在のまま計画を推進してゆく市当局の行政姿勢に対し、生活環境を根本的に破壊するに至るような計画は、極めて慎重かつ綿密なる検討の下にすすめるべきであるとの意向を有する同志が集まつて結成した。

(7) 昭和五〇年一月六日〜一一日

広島市主催説明会。

五つの単位町内会毎に説明会を実施した。

市当局はこの当時、第一次調査すら了していないにもかかわらず、「公害の心配は絶対にない。」と口頭で繰り返し力説するのみで、計画書も公表していない現状では、三滝、瀬野川の経験に徴するとき、住民を納得せしめるには足りないとの住民の意見に対し、「計画を白紙に戻す時機はあつたが今では出来ない。」と当初より住民不在の計画を推進して来たことを暴露する状況であつた。

(8) 昭和五〇年一月一九日

市の説明会・於浄泉寺。

市当局側は山本主幹外三名、沼田支所長出席の下に主として戸山生活環境を守る会を対象に説明会を開催した。

席上山本主幹は、「私は市長に直結しており、また八〇万市民を代表して発言しているから、私の約束は何でもやります。ゴミ処理について公害は絶対に出しません。」と自信たつぷりに口頭説明したものの、何ら無公害を裏付けるデータもなく単なる住民説得の場としようとの意図が窺われ、却つて住民は警戒の意を深くした。

ちなみに第一次調査の結果が明らかになつたのは、これより二か月後の同年三月一九日である。

(9) 昭和五〇年一月二三日

対策協議会発足。

ゴミ処理場設置推進の趣旨に賛成する主として地主らを中心とするメンバーにて正式に対策協議会(これまでにも、市当局の音頭により非公式にこのような名称を用いていた事実が存する)が結成された。

また、この日「戸山地区の平和と発展を願う有志一同」なる実態不明の発行者名による「ゴミ問題は専門的機関に照会調査の結果、公害の不安や心配はないと言つてよいことが確認されているから一部反対論者の悪質無知なデマや宣伝に乗ぜられないように。」との要旨の「戸山地区の皆さんへ」と題するチラシが各戸配布せられた。

(10) 昭和五〇年二月七日

市当局と対策協議会との会合・於市沼田支所。

市側より長行事環境事業局長(当時次長)らが出席のうえ対策協議会の幹部に対し、「対策協議会を市との交渉の窓口にする、反対意見は別に聞く。」との事項を確認し、賛成・反対の住民対立意識を意図的に区別のうえ、反対住民離反工作の挙に出た。

このことは、住民組織である連合町内会の存在を全く無視して、住民感情分裂策動を計り始めたものというべきである。

(11) 昭和五〇年二月二一日

四団体が対策協議会を脱会。

戸山婦人会、戸山小中学校PTA、子供会育成協議会、茲光保育園父母の会の四団体は、対策協議会の基本的な運動方針に同調出来ないとの理由で脱会届を提出し、対策協議会はこれにより一層へんぱな組織へと変貌してゆくことになつた。

(12) 昭和五〇年三月一九日

連合町内会正副会長交代。

荒木清連合町内会長は、かねてよりゴミ受入れ対策は軌道に乗つたから反対住民の感情を和らげるために連合町内会長を辞任したい旨表明しており、かつ同人は地主として受入れ派の代表的存在であつたため公正を疑う意見も多かつた。

よつて、辞表を受理のうえ改選し、会長に柳川佐利、副会長に沖山通夫、若本正明がそれぞれ就任した。

(13) 昭和五〇年三月二九日

市長と戸山生活環境を守る会との話し合い。

席上、市長は「戸山ゴミ処理問題は白紙にしている。住民の了解を得るまでは計画を進めない。」旨約束した。しかしながら他方で、市当局は対策協議会との話し合いで計画を着実にすすめているような動きが存した。

(14) 昭和五〇年六月一二日

畔上統雄プランド社長(第一次診断作成責任者)が現地に来訪のうえ、戸山生活環境を守る会の役員らに、市は強力実施の方針である旨を伝えた。

(15) 昭和五〇年六月二五日

市当局は計画区域に土地を所有する賛成派地主より計画実施を前提とした「承諾書」を取り付けた。

(16) 昭和五〇年七月一日

市当局の現地説明会。

市当局より長行事局長、河合次長出席の下に説明会を開催し、席上、市当局は近く公聴会を開き、続いてごみ非常事態宣言を発表して強力実施に踏み切り明年一月より搬入を開始するので反対意見を聞く余裕はない旨公言し、かつ地主の承諾書を求めたのは関係者より強い要請があつたからである旨答弁した。但し、関係者とは如何なる人達を指称するのかについての弁明はなされなかつた。

(17) 昭和五〇年七月八日

連合町内会正副会長、単位町内会長計六名により市当局に「五〇年一月以来現時点まで連合町内会の組織を認めないで計画の強力実施の方針が確定せられている以上、この時点で連合町内会が窓口となることは最早不可能である。」旨申し入れた。

(18) 昭和五〇年七月二四日

広島市はごみ非常事態宣言を市民に発表。

(19) 昭和五〇年七月三〇日

本件仮処分申請。

(20) 昭和五〇年九月

九月市議会において三〇億一九七五万四〇〇〇円の北部ゴミ埋立地予算案を発表(内訳は用地買収費二八億二一〇二万二〇〇〇円、汚水処理施設建設費総工費七億七〇〇〇万円のうち初年度分六〇〇〇万円、ゴミ破砕処理施設建設費八億五〇〇〇万円のうち初年度分六〇〇〇万円、さらに一〇月一日以降に予定している第二次調査費七八七三万二〇〇〇円という費目毎に極めて確定した内容をもつものである。)。

市議会厚生委員会で賛成六、反対二で可決し、同年一〇月三日議会本会議において原案どおり議決された。

また、定例市議会一般質問において市長は、「戸山計画について計画変更しない。」旨明確なる答弁を行つている。

次に、本件審理の過程において、被申請人があげた前記一二か所の候補及び申請人らが明らかにした四か所の候補地と本件予定地との比較検討並びに本件予定地選定の合理的根拠につき、被申請人は何らの主張立証をしないばかりか、本件に関する和解続行中に、前記伊藤忠不動産株式会社所有土地に関する契約を破棄する等被申請人の応訴態度は責められるべきである。

5 被保全権利と保全の必要性

(一) 被保全権利

(1) 環境権

人間はみな健康かつ幸福に生きるために、良い生活環境を享受し、これを支配する権利(環境権)を有する。これは憲法一三条及び二五条によつて保障されている。

(2) 人格権

人間は生来、健康かつ幸福に生きる権利を有し、これは人間の根源的かつ基本的な権利としてその人格と終始し、分離することができないもので、憲法一三条及び二五条によつて保障されている。

(3) 所有権

申請人らのうち別紙(四)所有者目録記載の者はそれぞれ同目録記載の土地を所有している。

次に、本件予定地内の一部である広島市安佐南区沼田町大字阿戸字堀越一一六四番墳墓地七三〇平方メートル及び同所一一六七番の二雑種地九九平方メートルは申請人のうち同町大字阿戸字天王原及び字上河原の各部落居住者(別紙(五)居住者目録記載)の共有地であつて墳墓地及び火葬場として利用されている。

(4) 林道及び里道通行権

本件予定地内には別紙第二図面記載のとおり、林道(同図面において黄色で着色したもの)及び里道(同じく茶色で着色したもの)があり、いずれも戸山地区住民が通行権を有する。

本件施設の建設は、申請人らの右各権利を侵害するものである。

(二) 保全の必要性

右のように本件施設建設は戸山地区の自然的、社会的及び文化的環境に大きな変容をもたらすおそれが多いのに、それに応じた合理的な調査及び手続がいずれも欠けており、従つてそれが被申請人の予定しているとおりこのまま建設されると、申請人らの前記諸権利に回復困難な被害がもたらされる蓋然性が極めて高い。

逆に、被申請人側からすると、事業主体たる被申請人は普通地方公共団体として環境保全義務を怠つているというべきである。この義務は憲法二五条、公害対策基本法三条ないし五条、地方自治法二条、民法一九九条等によつて実定法上認められるべきものである。

二 申請の理由に対する認否と被申請人の主張

1 申請の理由1(当事者)について

全部認める。

2 同2(本件施設の概要)について

全部認める。

3 同3(戸山地区の自然的社会的環境と予想される被害)について

(一) 同3(一)(現在の環境)について

(1)につき、戸山地区が豊かな美林に囲まれ、水、空気が清く、美しい自然と景観に恵まれた地域であることは認める。

(2)につき、吉山川は、昭和五〇年広島県告示第五二七号によると、申請人ら主張の環境基準のA類型に指定されている。また、申請人らが同川の水を直接飲料水としていることを否認する。

(3)につき、戸山地区の樹林の総面積が約二八五〇万平方メートルであることを認める。

(1)ないし(6)につき、その余は不知又は争う。

(二) 同3(二)(ゴミに含まれる有害物質とその人体に与える影響)について

廃棄物中に種々のいわゆる有害物質が存在することは認める。なお、Ⅰ及びⅡ表にいう有害ガスの発生は、いずれも当該廃棄物の焼却によつて発生するものであり、単に埋立をするのみでは発生しない。

(三) 同3(三)(先行埋立地における被害状況)について

(3)(水質汚濁について)のうち、三滝埋立地付近の井戸水中に、マンガンが申請人ら主張のように含まれていること及び瀬野川埋立地において有害物質が流出し汚染していることをいずれも否認する。

(4)(大気汚染について)のうち、戸坂埋立地付近の大気については、その測定(昭和四九年一〇月から昭和五〇年七月まで)の結果は申請人ら主張の環境基準にほぼ適合していた。三滝埋立地付近の大気についても、その測定(昭和四九年九月三〇日及び同年一〇月一日)の結果によると、著しく汚染されているとはいえない。瀬野川埋立地付近の大気測定(昭和五〇年六月九日から同月一一日まで)の結果も同様である。

(四) 同3(四)(被申請人のゴミ処理行政の問題点)について

被申請人が行つてきた清掃行政一般に対する申請人らの非難については争う。被申請人が清掃行政を重視し、積極的にこれと取り組んでいることは後記主張のとおりである。

(五) 同3(五)(戸山地区において予想される被害)について

別紙(三)「北部埋立地修正計画書」Ⅲ「公害防止環境保全対策について」記載のとおり、被申請人は本件施設建設に伴いその環境についても最大限の配慮をしているので申請人らの公害発生に対する不安は大幅に取り除かれるはずである。

(六) 同3(六)(修正診断批判)について

修正診断が、プランドにおいて北部埋立地修正計画を診断評価して作成したものであることを認め、その余をいずれも争う。

4 同4(本件施設に関する行政手続上の問題点等)について

(一) 同4(一)(合併条件違反)について

本件施設建設が合併条件に違反することを否認し、その余をすべて認める。但し、申請人ら主張の計画書中には、既に清掃施設整備の必要性が示唆されており、また山田市長の発言は本件施設建設を否定した趣旨ではない。

(二) 同4(二)(用地選定の不合理性)について

被申請人は、昭和四七年一一月ころから昭和四九年七月にかけて、左記一二か所について、良好な地域環境保全の可能性、事業の経済性、用地取得の可能性、道路条件等総合的に十分比較検討した結果、本件予定地に決定したものである。

① 沼田町阿戸地区市有林二か所

② 同町伴地区市有林

③ 戸坂町船ケ谷地区市有林

④ 安佐町後山地区市有林

⑤ 沼田町阿戸地区民有林

⑥ 安佐町幕の内地区民有地二か所

⑦ 同町小河内地区民有地

⑧ 安古市町鍋山地区民有地

⑨ 佐東町権現地区民有地

⑩ 可部町勝木地区有地

(三) 同4(三)(本件予定地選定に至る経緯)について

争う。申請人ら主張のゴルフ場建設予定地の問題は本件予定地選定と直接の関係がない。

(四) 同4(四)(環境アセスメントの欠如)について

被申請人は別紙(六)記載のとおり、四か月の期間を見込んで環境アセスメントを実施する予定である。

環境アセスメントの実施は未だ法制化されていないが、被申請人は本件施設建設にあたり、前例のないこの手続を採用し、その結果に基づいて本件施設建設に伴う環境保全対策を具体化するとともに、右結果を広く公表し、批判をも受け容れることとしており、また右結果如何によつては、本件施設建設に着手しないこととしている。

しかるに申請人らは被申請人の行う環境アセスメントを本件施設建設の準備作業であると誤解し、現に昭和五〇年一一月三〇日被申請人代表者である市長はじめ助役、清掃局長らが自ら出席して開催しようとしたそのための説明会や、同年一二月一二日実施予定の現地調査をいずれも実力で阻止した。

(五) 同4(五)(被申請人の強権的な工事推進政策と応訴態度)について

申請人ら主張の経緯のうち、後記6(三)で被申請人が主張するところと異なるものについては、いずれも争う。

5 同5(被保全権利と保全の必要性)について

(一) 同5(一)(4)(林道及び里道通行権)につき、林道及び里道は公共用物であるから、申請人らがこれを通行することは自由ではあるが、それはその設置によつてもたらされる反射的利益に過ぎないし、また被申請人は廃止する林道及び里道に代えて代替道路を設置する等の予定であるから申請人らの通行に支障はない。

(二) 同5(二)(保全の必要性)について

争う。

6 被申請人の主張

(一) 清掃行政の公共性と重要性

廃棄物処理の問題は、日常生活と事業活動の必然的な所産であつて、市町村行政の中で最も公共性を帯びた、かつ緊急を要する事業であるが、近年における生活水準の向上と産業活動の発展に伴い、廃棄物の質的多様化と異常な増量が見られるようになつて、これに対応するため各市町村とも苦慮している。しかも排出されるゴミを全部回収し、あるいは資源として再利用することは不可能であるから、焼却等の方法で中間的に処理されたゴミは、最終的にはどこかの土地に埋めるという方法で処理せざるを得ないものであるにもかかわらず、その用地確保は最も困難で、必ず地域住民の反対に逢着している。

(二) 被申請人の行政対応

かかる社会的背景の下で、被申請人は戸坂・三滝・瀬野川各埋立地における過去及び現在の経験を踏まえるなど今日の清掃行政全体の実態分析に基づき緊急の対策と将来計画を確立し、都市の環境保全計画の基本構想実現のため、地域住民の理解を得て新しい清掃行政を展開すべく、本件施設建設をそのモデルとして位置付けて実施しようとしているものである。

即ち、具体的には、昭和五〇年七月二四日ごみ非常事態宣言を発するとともに、住民及び事業所に対する協力の依頼と指導を進め、昭和五一年六月一日から全市にわたつていわゆる五種類分別収集方式を実施し、予想外の効果を挙げた。また、可燃性廃棄物の全量焼却を目的とした中工場(中区所在)を昭和五〇年八月に完成させ一日当り四〇〇トンの処理能力をもつて廃棄物を焼却処理しているほか北一工場(仮称。安佐南区沼田町大字伴所在)を昭和五八年三月に完成させる予定であり、さらに、廃棄物処理のあり方について調査審議のため学識経験者と住民代表とで構成される「広島市廃棄物処理事業審議会」(昭和五一年七月二一日)、廃棄物処理施設設置に伴う公害防止等の対策の検討のため、「広島市廃棄物処理施設技術検討委員会」(昭和五二年二月二五日)をそれぞれ設置するなど、前記北部埋立地修正計画書の策定とも関連して、清掃行政の運営全般にわたる改善努力を続けている。

(三) 本件予定地決定前後の経緯について

被申請人広島市においては、昭和四七年一一月ころから既存の三滝埋立地が昭和五〇年三月には限界に達するとの予測の下に、これに代るゴミ埋立地を選定するため、前述の一二か所の候補地について順次比較検討を進めた結果、昭和四九年七月までに本件予定地が最適地であるとの判断に固まり、同年一〇月二一日その旨を正式に最終決定した。

被申請人のその後における戸山地区の住民らに対する対応の経緯は以下のとおりである。即ち、

埋立地を設置するについては、事前に地域住民の十分な理解を得、合意の下に事業を進めることが何にも増して重要であると信じる被申請人は、本件埋立計画が決定されると、まず、地域住民及び予定地の地権者への本件計画に関する説明等の対応は、すべて先方の意思を尊重した方式によるべきであるとの考えの下に、昭和四九年九月、沼田町戸山地区町内会連合会(沼田町戸山の阿戸下町内会、阿戸町内会、中央町内会、下吉山町内会及び上吉山町内会で組織。以下連合会という。)会長荒木清に対し、本件埋立計画についての地域住民及び地権者の意向打診方を申し入れた。

これを受けて連合会は、昭和四九年一〇月二七日から同月三〇日まで、ゴミ埋立処分の実情を知るため、前処理として本件と同様のゴミ破砕処理を行い、しかも施設の立地環境が類似する石川県金沢市戸室新保埋立場及び京都市の清掃工場へ一七名の地元代表者を派遣し、これを視察させ、地元としての立場で本件埋立計画の適否について検討した。

また、その一方で、被申請人は本件埋立予定地の地権者に対しても、連合会を通じて、本件北部埋立計画及び現地立入調査に関し協力を求めるとともに意向を打診した。

これ以後、被申請人は住民の清掃行政への理解を深め、いつそうの協力を得るためさまざまに力を尽したが、その概略は次のとおりである。

(1) 昭和四九年一二月二三日・二六日

戸山地区町内会正副会長、戸山地区PTA正副会長、戸山生活環境を守る会(以下、守る会という。)会長、交通安全協会会長、婦人会会長、老人クラブ会長、民生委員その他各種団体の代表に本件北部埋立計画に関する説明会を開き、協力を依頼。

(2) 昭和五〇年一月六日から一一日まで

中央町内会(約七〇名出席)、阿戸町内会(約七〇名出席)、上吉山町内会(約五〇名出席)、下吉山町内会(約一〇〇名出席)、阿戸下町内会(約九〇名出席)に対し、順次説明会を開催。

(3) 昭和五〇年一月一七日

本件予定地の地主総会(九三名((うち八名は沼田町外に在住))中六〇名出席)において、測量その他の調査のため土地への立入りの承認を求め、了承された。

(4) 昭和五〇年一月一九日

守る会に対し、説明会開催(約二〇〇名出席)。

(前(1)から(3)までの説明会において、地元住民から本件埋立に伴う環境汚染、ゴミ搬入車両の通行による交通公害等についての不安が表明され、これに対し、被申請人は環境保全対策、防災対策等に関し早急に専門家に調査委託し、その結果を元に再度説明会を開催する旨回答した。)

(5) 昭和五〇年一月二四日

ごみ処理施設戸山地区対策協議会(以下、対策協議会という。)発足(会長荒木清、構成員二六名。その内訳は町内会役員、農業委員会委員、交通安全協会会長、漁業組合長、民生委員、子供会育成会役員、戸山地区PTA会長、婦人会長、消防団分団長、保育園父母の会役員、農業協同組合常務理事、商工会副会長、青年会役員、老人クラブ役員及び地主代表である。)。

(6) 昭和五〇年二月一二日

対策協議会と協議(協議会側一八名出席。被申請人側助役津田真行外出席。)。

(7) 昭和五〇年二月一三日・一四日

プランドに委託して、ゴミ埋立地の建設に伴う本件予定地の概略調査(第一次環境調査)を実施。

(8) 昭和五〇年三月二日

沼田町戸山の全住民を対象に第一次環境調査結果の報告会開催(約六〇〇名出席。被申請人側から助役津田真行、清掃局長長行事勝外出席。)。

(9) 昭和五〇年三月二九日

広島市長荒木武と守る会会長真田積外五名と協議し、第二次環境調査の実施に協力方を要請。

(10) 昭和五〇年四月一五日

広島市長荒木武と戸山地区PTA、婦人会、子供会育成会、保育園父母の会及び子供のことを考える会の代表者と協議し、第二次環境調査の実施に協力方を要請。

(11) 昭和五〇年六月から七月にかけて、本件埋立予定地の地主の約八割から承諾書を受領。

(12) 昭和五〇年七月二〇日

ごみ非常事態宣言。

(13) 昭和五〇年七月二三日

北部埋立地基本計画書を戸山地区全戸へ郵送。

(14) 昭和五〇年八月三日

久地生活環境を守る会(安佐町久地地区住民で組織)への説明会開催。

(15) 昭和五〇年一〇月二七日

守る会、婦人会、戸山地区PTA、子供会育成会、保育園父母の会、子供のことを考える会、地主会、対策協議会、連合会及び五団体連絡協議会に対し、文書を持参して第二次環境調査に関し協議を行うことを申入れ。

(16) 昭和五〇年一一月七日

前(15)の回答について文書により督促。

(17) 昭和五〇年一一月一一日

前(15)に掲げる一〇団体に対し、第二次環境調査に関する協議について、口頭で再度の申入れ。

(18) 昭和五〇年一一月一四日

前(15)に掲げる団体のうち、対策協議会及び地主会以外の団体から第二次環境調査拒否の文書回答を受領。

(19) 昭和五〇年一一月二〇日

北部埋立計画の第二次環境調査の趣意書(用地選定の経緯、清掃行政の現況、環境調査の目的及び住民の協力方要請について記載)を戸山地区全戸へ郵送。

(20) 昭和五〇年一一月二六日

第二次環境調査に関する説明会開催通知を戸山地区全戸へ郵送。

(21) 昭和五〇年一一月三〇日

第二次環境調査に関する説明会開催のため、広島市長荒木武、助役津田真行、助役銀山匡助、清掃局長長行事勝外が現地に赴いたが、住民の実力阻止により開催不能。

(22) 昭和五〇年一二月三日

第二次環境調査の実施の通知を戸山地区全戸へ郵送。

(23) 昭和五〇年一二月一二日

第二次環境調査のため現地に入つたが、現地で午前一一時から午後四時まで五時間にわたり、調査団一行は住民に包囲され調査不能。

(24) 昭和五一年一〇月

北部埋立地修正計画書を戸山地区全戸へ郵送。

以上掲げたとおり、被申請人は地域住民の理解と協力を得るため、幾度となく話合いの機会をもつ等の努力を行つている。

本件訴訟の結論は、右第二次環境調査の結果を得て初めて適正に下し得るものであるが、右経緯から明らかなように申請人らにおいて右調査のための現地立入さえも実力をもつて阻止し、かつ本件でその排除を含めて申し立てていることは権利の濫用というべきである。

第三 疎明関係〈省略〉

理由

第一当裁判所の認定

一申請の理由1(当事者)及び2(本件施設の概要)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二同3(戸山地区の自然的社会的環境と予想される被害)について

1  同3(一)(現在の環境)について

(一) 同3(一)(1)(戸山地区の概要)について

〈証拠〉を総合すると、戸山地区は広島市の中心部から直線距離で一〇数キロメートル北方の山間部に位置しているが、その面積の約八五パーセントが山林であつてしかも人工林率の高い混淆択伐林を形成しており、残余の約一五パーセントが耕作地で良質な米の産出地となつていて、その住民の多くは農地及び林業に従事していることが疎明される。

(二) 同3(一)(2)(吉山川の水質)について

〈証拠〉を総合すると、吉山川は、昭和五〇年広島県告示第五二七号によつて申請人ら主張の環境基準のA類型(達成期間は「直ちに達成」)に指定されているが、実際にはほぼその全域においてより良好な右環境基準のAA類型に属しており(右環境基準はいわゆる目標値であるが、ここでは現在の水質が既にAA類型を達成している趣旨で右環境基準を借用した。)、ヤマメ、ゲンジボタル等が棲息する清流であつて、豊水量(年間九五日利用しうる水量)と渇水量(年間三五五日利用しうる水量)の差が大きく、平均流量は一日約六万立方メートルで、最小流量は一日約一四〇〇立方メートルと推算され、かつ、自浄能力に乏しい河川であること、申請人らを含む戸山地区住民の生活は、浅井戸、掘抜井戸等によつて同川水系の自然水(伏流水又は地下水等)を汲み上げ飲料水等の生活用水としているほか、同川の流水をその流域において繰り返し田畑の灌漑用水に利用する等、同川と極めて密接な関係にあり、この生活用水としての自然水の利用は同川が右環境基準のAA類型に属していることで初めて成立するものであつて、戸山地区の住民の生活は周囲の自然環境に対する依存度において広島市周辺では最も高い水準にあり、特に吉山川との関係においてその傾向が顕著であることがそれぞれ疎明され、これに反する疎明はない。

(三) 同3(一)(3)(戸山地区の大気)について

戸山地区の樹林の総面積が約二八五〇万平方メートルであることは当事者間に争いがなく、前掲甲第一五二号証及び申請人竹原清泉本人尋問の結果によると、その余の事実が疎明される。

(四) 同3(一)(4)(戸山地区の気候)について

〈証拠〉を総合すると、戸山地区においては、逆転現象によつて大気が停滞し、通常、大気の汚染物質はその低温帯に滞留する傾向があることが疎明される。

(五) 同3(一)(5)(本件予定地付近の地質)について

〈証拠〉を総合すると、本件予定地内にある三つの谷はいずれも被申請人において埋立を予定されているところであるが、そのうち前記北側の二つの谷は、後記東北・西南方向の断層系に属する岩盤の構造規制を受けて急角度で屈曲し、堆積層はないか又は仮にあつても薄く透水性の高いマサ土で組成されており、右二つの谷の合流点より下万の谷部分(別紙第一図面において緑で着色した範囲のうち、「241.9」と記載されている地点付近)及びもう一つの前記南側の谷は岩盤による構造規制が不分明となるほどに土石流堆積物による堆積層が厚いが、右堆積物は非常に透水性が高いこと、申請人ら住民の居住する本件予定地東南方の平地は断層破砕帯であるが、本件予定地内にはその副断層として東南・西北方向と北々西・南々東方向の二系統のあることが推定されること、右三つの谷がゴミ埋立に適するか否かについては、いずれもその上層が透水性が高い性質であるため、下層のカコウ岩々盤の調査を経ないでは必ずしも断定できないが、右推定される二系統の断層による破砕帯の存在から考えて右岩盤は破壊作用を受けており、その風化の程度如何では埋め立てたゴミによる浸出汚水の浸透が生ずる蓋然性が高いこと、その場合には、前記「北部埋立地基本計画書」において計画され現在も維持されている遮水コンクリート擁壁の設置及びカーテングラウトの施行等は右浸透の防止には全く役立たないこと、また右土石流堆積物の層は非常に透水性が高いためカーテングラウトの施工によつて浸出水を止めることは不可能であること、右岩盤の調査が右三つの谷がゴミ埋立に適しているかどうかの判断の前提として必要不可欠であることは地質学の見地からは簡単な調査で結論できるはずのものであること、しかるに前記「北部埋立地基本計画」を検討したプランド作成の前掲乙第一号証(「北部埋立事業計画に関する用地周辺環境の一次診断と埋立実施設計に関する基本方針の検討」。以下、「第一次診断」という。)では一番北側の谷について安易に、「周囲の山の岩盤も不透水性の良質なものと判断できる。従つて、地下水汚染もないと判断できる。」としていること、しかし右岩盤調査によつて断層破砕帯の存在を確認することは第二次環境調査における被申請人が主張する程度の期間のボーリングによつてはまず不可能であろうと推定されることがそれぞれ疎明される。

(六) 同3(一)(6)(戸山地区小、中学校への通学路)について

〈証拠〉によると、本件施設へのゴミ搬入経路は、戸山地区の小中学校児童生徒の通学路となつており、その幅員が一部三メートルに達しない部分のあることが疎明される。

2  同3(二)(ゴミに含まれる有害物質とその人体に与える影響)について

〈証拠〉によれば申請人ら主張の事実が疎明される。なお、被申請人が指摘した有害ガスの発生の点については、〈証拠〉によつて、当該廃棄物の燃焼のみによつてもたらされるとは限らないことが疎明される。

3  同3(三)(先行埋立地における被害状況)について

(一) 同3(三)(1)(右の総論部分)について

〈証拠〉によると、一般に各種汚染の調査にあたつては、単に一時期において一定の環境条件を前提とした汚染状況を把握するだけでは足りず、特に重金属による汚染については、未だ十分にその解明がなされていない現状であり、そのゴミ埋立地における汚染については、そもそもいかなる物質がいかなる重金属を含有しているかは不明であるうえに、いかなる物理的、化学的又は生物学的変化が発生することによつて汚染がもたらされるかは必ずしも明らかではないが、酸化還元電位の変化、PHの影響、有機酸との反応による水溶性化合物の生成、炭酸ガスによる溶出、錯塩形成による溶出又はバクテリアの作用による溶出等が考えられており、従つて申請人らの主張の環境庁告示に定める検出方法による検定の結果だけでは不十分であり、また仮に重金属の溶出は微量であつてもいわゆる食物連鎖によつて人体に悪影響を及ぼすことになること、次に一旦汚染された土穣は回復することが不可能に近いことがそれぞれ疎明される。

(二) 同3(三)(2)(先行埋立地と本件予定地との面積、埋立容量等の対比)について

〈証拠〉によると、申請人ら主張の各事実が疎明される。

(三) 同3(三)(3)ないし(5)(先行埋立地三地区における水質汚濁、大気汚染及び環境破壊)について

〈証拠〉を総合すると次の各事実が疎明され、これに反する疎明はない。

(1) 水質汚濁について

ア 三滝埋立地

処理水についての被申請人による検査項目と検討内容及びその結果については申請人らが指摘するとおりであるほか、昭和五二年及び五三年度の同検査の結果もそれまでと同様の傾向を示している。なお、公害研の実験によると、右処理水はこれを一〇倍に稀釈しても、その中では魚が長時間生存することができなかつた。

次に、同埋立地付近の民家では、井戸水が使用できなくなり、これで飼育していたニワトリ、金魚、文鳥といつた動物類の奇型等の発生が見受けられるが、同地区住民の意識ではいずれも埋立地からの廃汚水の影響によるものととらえられており、このことは後記のとおり地質学的にもその可能性があるとされている。また、公害研は昭和五〇年以降頻繁に同埋立地周辺の民家(矢田家、鳴川家等)の井戸水を検査してきているが、その結果によると、被申請人が件外中外医線工業株式会社に委託して得られた右矢田家の井戸水の検査結果(昭和五〇年一〇月に調査したもので、全項目にわたり、水道法及び前記厚生省令に定める基準に適合しているとされたもの。)とは、銅、亜鉛及びマンガンの各項目において分析結果が大きく異なり、同年においても右基準を超える数値を示した項目もあるのみならず、同埋立地直下にある鳴川家の井戸水は、右基準を大きく上回るマンガンの含有(最高は昭和五二年九月の15.6PPM)及び色度(同じく四三)を示していることが報告されている。

イ 瀬野川埋立地

被申請人による昭和四九年八月以降昭和五三年一二月までの同埋立地からの処理水の水質検査の結果では水質汚濁防止法及び前記総理府令に定める許容限度を超えたことはほとんどないが、公害研が被申請人の掘削したボーリング井戸水の水質検査を行つた結果では、埋立地下方のボーリング井戸において、右許容限度内ではあるが、水道法及び前記厚生省令に定める基準を大きく上回るマンガン及び鉄が検出されている。

次に、同埋立地下底部分の軟岩ないし中硬岩部分の破砕部に沿つて汚染された地下水が浸透し、露頭面では悪臭を伴つた汚水が浸出している。因みに、修正診断では「隣接谷への浸出水の影響が懸念される。」とされているにとどまり、またマサ土の転圧による不透水面の作成がその対策として提案されているが、同埋立地周辺のマサ土は風化の程度が多様であつて、そのうちの粘土化が進んだマサ土を使用するのでなければ不透水面を作成することはできないのに、その点についての言及がなされていない。

そのほか、修正診断が対策としてあげている遮水コンクリート擁壁、カーテンゲラウトの施工等も同埋立地下底の地質状況が不透水性のものであつて初めて有効に機能するものであるという条件付である。

同埋立地周辺の汚染については、同埋立地において採用されたサンドイッチ工法によつて埋め立てたゴミの層が厚すぎたこと及び覆土が不透水性のものであつたため、本来の目的である好気性分解の逆である嫌気性分解となつてしまつたことがその原因の一つとして考えられる。

ウ 戸坂埋立地

同埋立地最下端の汚水溜には悪臭の強い黒い水が常時流れ込み、その分析結果は被申請人のデータだけでも、PCBやヒ素の含有を示し、ほかにクロムの含有が明らかとなつている。

(2) 大気汚染について

ア 戸坂埋立地

昭和四八年一〇月以来、同埋立跡地を利用して造成した戸坂中学校の校庭の地割れから大量のガスが噴出していることで問題とされるようになり、その後の調査結果によれば、右ガスには引火性があり、都市ガス以上のカロリーを有し、約六〇パーセントのメタンガスのほか、硫化水素、メチルメルカプタンといつた悪臭有害物質が含まれていることが明らかとなつている。その原因として同埋立地には、産業廃棄物、生ゴミ等を含むあらゆるものが埋め立てられたこと及びサンドイッチ工法が採用されていたもののその施工法が誤つていたこと等が考えられている。

なお、被申請人の行つた調査結果によると、右戸坂中学校における大気汚染は広島市南区所在の皆実小学校におけるのと有意の差はないが、同中学校ではグラウンドが使用できないままに放置されている。右グラウンドでは植えた並木が次々に枯死し、グラウンドそのものも地中のガスが抜けて行くにつれて沈下し、度々盛土がされたが現在でも地盤としては不安定である。

同中学校の在学生及び卒業生の健康診断の結果では現在のところ、大気汚染の影響はみられないが、将来にわたつて被害が表れないという保障はない。

同中学校とともに跡地利用として計画されていた戸坂新町小学校の建設は中止された。

ア 三滝埋立地

同地区付近住民は現在もひどい悪臭に悩まされており、同埋立地では発生するガスの自然発火及び燃焼に対処するためホースによる散水が行われている。また付近住民の意識では付近の緑がめつきり減少したといわれている。

いわゆるゴミの野積がなされていた時期のあつたことが住民によつて指摘されているが、これが悪臭の発生等の原因をなしていることも考えられる。

ウ 瀬野川埋立地

同埋立地にはいわゆる生ゴミの埋立がなされていないことになつているが、被申請人のデータによると、これが埋め立てられている場合と同様の二酸化イオウ、二酸化窒素、硫化水素、メタン、トリメチルアミン、メチルアミン等が含有されているガスが発生している。右ガスは生暖かい悪息のあるものである。なお、被申請人は現在では同埋立地内にガス抜き管を設置している。

(3) 環境破壊について

ア 三滝埋立地

申請人らの主張のとおりの各事実が疎明される。(なお、早朝・夜間搬入が実施されている。)もつとも、右各事実と同埋立地におけるゴミ埋立との因果関係については明らかでないものもあるが、前述した同埋立地の水質汚濁及び大気汚染並びに付近住民の意識を総合すると、同埋立地の存在がかかる環境破壊の一因をなしていることは否定できないところである。

イ 戸坂埋立地

前述のとおり、戸坂新町小学校の建設は中止されたところ、その理由については必ずしも明らかにされていないが、それが前述した戸坂中学校の現状と関連するものであることは推認するに難くない。

4  同3(四)(被申請人のゴミ処理行政の問題点)について

〈証拠〉を総合すると次の各事実が疎明される。

(一) 同3(四)(1)(一般的問題点)について

被申請人広島市における従来の廃棄物の公共処理の特徴として、第一に他都市に比較して人口一人当りの処理量が多く(昭和四七年度の生活及び事業所廃棄物の比較では一日当りで、尼崎市七五三グラム、大阪市一三九一グラム、札幌市一四九八グラムであるのに対し、広島市旧市域のみで一八九四グラムとなつている。)、その原因は事業所廃業物が大量に公共処理されている(同年度事業所廃棄物の比較では、前記各都市において同順に、一七六グラム、七三六グラム、八四八グラムであるのに対し、広島市は一二六〇グラム。生活廃棄物の比較では、前記各都市において同順に五七七グラム、六五五グラム、六五〇グラムであるのに対し、広島市は六三四グラム。)こと及び他都市ではほとんど取り扱うことのない土砂を広島市においては取り扱つている(同年度人口一人当り一日当り五一一七グラム。)ことにあつたこと、第二に焼却処理率が低く、埋立処理率が高かつた(昭和四八年度の家庭系廃棄物の処理方法は、焼却が三二パーセント、埋立が六八パーセントで、生ゴミなどの可燃性廃棄物も大部分未処理のまま埋め立てられている。)こと、第三に、第一の特徴とも関連するが、他都市では自家処理を指示していることの多い事業所系廃棄物を低額の処理料金で公共処理してきたこと等があげられる。その後、いわゆる五種類分別収集の実施(昭和五一年六月)、同市中区所在の通称中工場の稼働(昭和五一年八月。焼却能力日量四〇〇トン。)処理料金体系の改訂等、昭和五〇年七月二四日の広島市長による「ごみ非常事態宣言」の下で種々の改善策を通じて新しい清掃行政の模索がなされている。その結果、昭和四八年度には六三万一千トンであつたゴミ量が昭和五二年度には三一万三千トンと半減し、同年度事業所系廃棄物は人口一人当り一日につき約五二二グラムにまで減少した。

(二) 同3(四)(2)(先行埋立地に対する被申請人の行政対応等の実状)について

(1) 戸坂埋立地について

同地区をゴミ埋立地として選定した昭和四一年二月の時点において、被申請人は十分注意して埋立を実施すれば公害問題が起る心配はないと判断したが、前述のとおりガス噴出が問題化し、戸坂中学校PTAを中心に被申請人に対し、同校移転を含む対応策の要求があつた際、被申請人は当初右ガスが無害であると説明していた。しかし、その後の調査で前記右ガスの内容及び性質が明らかとなつたため、被申請人は同校々舎に空気浄化装置を設置したものの、その実効はあがつておらず、前述のとおりグラウンドは使用できないままで、同校の移転も未だに具体化していない。

なお、同校在校生及び卒業生に対する定期的健康診断と同埋立地のガス抜き工事はそれぞれ実施されている。

(2) 三滝埋立地について

被申請人は昭和四二年一二月同地区をゴミ埋立地とすることを内定し、昭和四三年一一月から地元説明会を実施したが、反対する地域住民(そのうち、二九〇名が昭和四六年九月反対陳情書を提出した。)が残つた。右説明会において、被申請人はゴミ埋立に伴う公害の発生について学界の権威者に依頼してそのような迷惑は絶対にかけないとか、悪臭等についても万全の策を講ずる旨及び埋立期間は一年の予定である旨言明し、地元住民からの要望に応じて、臭気対策、野犬の捕獲、搬入車両による交通問題の対策及び道路の清掃、上水道の布設等を約束したが、現実には前述のような被害が発生しており、右約束のうち、一応履行されていて実効のあるものは道路の清掃位のものである。なお、上水道については本管は布設されたが、各戸までの支管の布設は地区住民の自費であつた。なお、オゾンによる水質浄化装置は設置されている。

そして搬入期間は前記言明にかかわらず四度にわたつて延長された。

同埋立地付近には地質学的にみて断層破砕帯のありうることが指摘されており、従つて広汎な地下水汚染が惹起される可能性があり、その結果として前記井戸水の汚染を招来していると推定する余地があるにもかかわらず、被申請人は右井戸水汚染とゴミ埋立との因果関係が明らかでない等を理由にその必要がないとして現在に至るまで右井戸水汚染についての総合的な科学調査をしていない。

(3) 瀬野川埋立地について

被申請人は昭和四七年四月同地区にゴミ埋立をすることを公表し、昭和四八年六月ころから地元説明会に入つたが、埋立物の種類については当初、土砂及び瓦礫のみとして説明していた。地元住民の大部分による反対運動の中で、昭和四九年五月被申請人は海田町当局の了解(同町が瀬野川下流から上水道の取水をしている関係で、水源汚染防止に関するもの。)及びゴミ埋立の地元ではあるが右埋立による影響を受けにくい瀬野川町大山地区の住民の同意(搬入物は、土砂、瓦礫、建築廃材及び粗大廃棄物に限るとされていた。)をそれぞれ取り付けたのみでその余の地元住民の同意を得ることなく搬入を開始した。

同年九月、瀬野小学校PTAの要請により説明会が開催され、搬入物の種類は右四種に限定されることが重ねて確認されたほか、出席住民から同埋立地全域の岩盤調査をしたか否か質されたのに対し、被申請人はこれを肯定してそのデータの公表を約束したが、実際には汚水処理槽の上の堰堤設置のため地質調査をしていたにとどまり、従つて右データの公表はなされなかつた。また、搬入物の種類についても汚泥の搬入、埋立が分析表の提出を条件として許可される等緩和される傾向にあるほか、ゴミ搬入時の監視体制が不十分であるために、本来搬入できないことになつている薬品類、塗料、廃油脂等あらゆるものが搬入され埋め立てられてしまつているのが実状で、その中には重金属が高濃度で含有されているものもあつて、そのため同埋立地及びその周辺の土壌の汚染が招来されている。瀬野川下流において瀬野川町簡易水道の取水がなされている関係で、同埋立地からの処理水及び浸出汚水が同川を汚染するのではないかという地元住民や科学者らの不安や指摘に対し、被申請人は汚水処理施設を設けているとか、同埋立地下底は一枚岩であるとかといつた理由で、汚染は生じないと回答してきているが、少なくとも後者の理由が科学的裏付けに乏しいことは前述したところから明らかである。次に被申請人は水質調査のため同埋立地周辺に計一〇か所のボーリング井戸を掘削しているが、うち八か所は同埋立地下底の標高よりも高い位置にあると推定される等、右調査のためのボーリング井戸として適当であるかは疑わしく、また住民に公約されている第二次汚水処理施設の建設もいつ実現されるのか未だに不明である。

従つて以上のような経緯を背景に現在でも、地元住民の反対運動が根強く続いている。

なお、搬入管理システム(搬入者の届出・許可・登録と排出者の届出・登録を同時に行い照合する。)を採用実施しているが、右の実状から考えてその実効があがつているか否か甚だ疑わしい。

次に、同埋立地についても総合的な科学調査は未だになされていない。

(4) 以上のような先行三埋立地に関する被申請人のとつてきた行政対応を通観すると、右各ゴミ埋立地選定にあたつて最も重視されたのは、地形が埋立に適しているかどうか及び用地取得の容易性であつて、埋立地選定後地元説明会において公害防止については万全の方策を講じるとして説得を試みるのみで、事前に科学的な調査を行つて公害予測とその対策を講ずるという姿勢が見受けられず、また、地元住民の要望や指摘で公害が発生していることが判明してからもまずはこれを否定し、ようやく対策を講じてからもそれがどのように機能しているかについての検証がなされず、結局地元住民の強い反発を買うといつた傾向が生じ、その対応姿勢は終始行政優位の態度を堅持しているものと認められるので、遺憾ながら、責任ある地方自治体としての被申請人には、従来ゴミ埋立にあたつて地区住民に対する環境保全の視点が欠落していたものと言わざるを得ない。

(5) 次に本件施設に関しては、被申請人がこれを建設することを決定したのは昭和四九年七月であり、当時は三滝埋立地が昭和五〇年三月には限界に達すると予測されていたところから、被申請人の関係部局においては昭和五〇年四月には本件予定地にゴミの搬入を開始することが予定されていたこと、右決定の理由は本件予定地の地形がゴミ埋立に適しているとの判断及び当時の広島市役所沼田支所長岡田三千夫の情報によつて用地の一括取得の可能性があるとの判断が主要なものであつたこと、右決定が戸山地区住民に広く知られるようになつたのは昭和四九年末ころからであること、プランドは昭和五〇年一月被申請人から本件予定地についてのみ調査を委嘱され、その目的は戸山地区の住民に対するいわば説得の材料の作成であつたこと、プランドが右委嘱によつてした調査は期間が限られていた関係もあつて現地では僅か二日間の概査をしたにとどまるなど、十分なものではなかつたこと、同年三月二日開催の地元説明会において戸山地区の住民から右調査結果と計画内容とを書面で公表するよう要求されて作成公表されたのが第一次診断であること、修正診断は本件訴訟における被申請人の防禦方法とすることをも目的として作成されたものであることがそれぞれ疎明され、さらに被申請人提出の本件最終準備書面においても、申請人らの対応について、感情的に本件施設建設に絶対反対するものとしてしかとらえられていないことは当裁判所に顕著であり、これらによると、前記(4)で述べた被申請人の行政対応の問題点は、現在に至るまで被申請人において明確には意識されておらず、従つてまたその改善策も講じられていないと推認するほかはない。

5  同3(五)(戸山地区において予想される被害)及び(六)(修正診断批判)について

(一) 本件施設において採用される埋立工法等について

前記一において当事者間に争いがない事実として認定した本件施設の概要によると、本件施設においては、原則として旧安佐郡及び白木町において排出される不燃性廃棄物を、埋立開始時点で日量約一五〇トン、同終了時点で日量約二四〇トンと想定して埋め立てる予定で、搬入経路は前記県道を利用し、その車両台数は一日当り搬入開始時約五〇台、同終了時約八〇台と見込まれ、搬入物は、(1)土砂、瓦礫、ガラス、陶器類、(2)町内清掃ゴミ、事業所系紙、木質建設材等、(3)焼却不適ゴミ、大型粗大ゴミ、ゴム、プラスチック屑類(埋立全量の約半分を占めると予想されている。)、(4)焼却残渣(埋立全量の約四分の一を占めると予想されている。)、(5)有害物などを中心とする不燃性廃棄物、(6)緊急時におけるやむを得ない場合の一部生ゴミ(可及的に回避する方針であるとされている。)であつて、管理体制として搬入物管理・場内管理と搬入管理システム等があげられ、区割管理埋立方式を採用して、ゴミを分類し、それぞれ別区割に埋め立て、防災工法として調整池、コンクリート擁壁・もぐり擁壁の設置等、環境保全工法として、清水と汚水との分離、グラウト工法等、安定地盤造成工法として、サンドイッチ工法、マサ土による堰堤で浸出汚水を防止するのり面造成等があげられている。

次に、〈証拠〉によると、本件予定地において採用される予定の公害防止環境保全対策として、水質保全については脱窒素処理の高度化、凝集沈澱処理の高度化及びイオン交換処理による有機質及び重金属除法の強化等を図る等、ガス、臭気対策及び害虫等防止対策についてはほぼ問題の発生がないと予想し、騒音防止対策及び交通安全対策についても十分の方法が講じられる予定とされていることが疎明される。

(二) 前記「北部埋立地修正計画書」と修正診断における公害防止環境保全対策等について

(修正診断は、第一次診断提出後、被申請人における清掃行政を取り巻く事情の変更を前提に、被申請人主張のように本件予定地についての第二次環境調査が申請人らにより実力で阻止されたため、これを経ぬまま、入手し得たデータにのみ基づいて、右修正計画書を診断したものであることがそれ自体によつて明らかであるから、当裁判所は右の点を念頭に置きながら、これが右修正計画書を診断しかつ具体的に展開して、その妥当性を根拠付ける役割を担うものであることを考慮し、以下これを右修正計画書と併せて検討することとする。)

これまで認定してきた事実を前提として、右修正計画書及び修正診断に対する次のような疑問は合理的なものであり、従つてこれに関連する申請人らの主張も相当であると考えられる。(いうまでもなく、当裁判所はかかる事項に関して専門的な知識を有するものではない。しかしながら、本件のような事件の特質上、通常人において抱くであろう公害発生へのおそれが申請人らにおいて一応疎明された場合、証明責任の公平な分担の見地から、これを専門的な立場から、平明かつ合理的に被申請人においてその反対疎明をしない限り、公害発生のおそれありと判断するのが裁判所の立場として相当であると考える。)

(1) 水質汚濁について

ア 吉山川は前記環境基準のA類型に保全されることになつている。

しかし、前述のとおり、戸山地区の住民の生活は現在吉山川が右環境基準のAA類型に属していることで初めて成り立つているものであることに照らすと、その重要性の認識に欠けている。僅かに、修正診断五五ページで「環境影響評価の段階では飲料水、農業用水、漁業など水利用面に関する多角的な分析評価が必要となろう。飲料水への影響は……第二次環境調査の結果をまたなければ検討の余地はない。」、同七三ページで吉山川の水質保全目標設定にあたつて、「農業用水利用、魚類の悽息、更には住民の感覚(色度)に与える影響などを検討し」たとそれぞれ記載されている程度である。

ちなみに、同五四ページ図表3―6に示された水質は大腸菌群数を除く他の項目において吉山川がほぼその全域にわたつて右環境基準のAA類型に属するものであることを示しているが、これについては「広島市が測定した水質データにおいて、……A類型が現状保全されていることが裏づけられる。」と評されているにとどまる。

イ 修正診断四八ページでは、廃棄物埋立地の排水処理システムにおいては、搬入廃棄物の質的な管理が適確に行われることが重要であること、同一五一ページでは、「むしろ廃棄物による水質汚濁負荷の方が水質環境保全システムの水準について支配的な影響を与える。」ことがそれぞれ指摘されている。

ところが一方、同一六ページでは瀬野川埋立地における搬入管理が必ずしも十分でないことを認めながら、少なくとも右程度の水準の搬入管理が本件施設計画の前提となると記載されていることから考えると、前述の瀬野川埋立地における現状に照らし、本件施設において右管理の適確性の保障はあまり期待できないと言わざるを得ない。

ウ 修正診断五〇ページでは、焼却残灰と不燃物埋立地の水質のデータとして唯一奈良市の例があげられているが、それは本件施設の予定規模と比較してあまりにも小さく、また埋立期間も短かい。従つて有意義な参考データとはなり得ないにもかかわらず、同ページで「水処理負荷の予測に関する修正検討は、類似の埋立地(右奈良市の例を指すと考えられる。)に関する調査をもとにまとめあげた。」とされている。

エ 修正診断六一ページでは、有害物保管施設は完全に自然水と遮断することとされているが、これについて触れた同三三ページにも右施設(保管庫)の具体的な構造等の説明がなされていない。従つてかかる施設に対する信用性の保障も不明である。

オ 右修正計画書及び修正診断において、汚水処理システムにつき詳しく説明されているが、それは汚水の完全集水が可能であることを前提としている。

修正診断一四九及び一五〇ページでは、三滝埋立地においては「ほとんど」、瀬野川埋立地においては「すべて」浸出水が貯溜槽に入るとされており、前記右各埋立地において現実に発生している地下水汚染(断層破砕帯の存在によるものと考えられる。)については全く言及されていない。(もつとも、前記のとおり、同一四五ページで、その「懸念」等が言われているが。)

(2) ガス及び臭気対策については右修正計画書及び修正診断のいずれにおいても、生ゴミの破砕埋立をしないとしてあまり重視していない。

しかしながら、前記のとおり、生ゴミを搬入していないはずの瀬野川埋立地においても被申請人はガス発生を前提としてガス抜き管を設置しており、そのガスが流化水素、トリメチルアミン等の悪臭のある有害物質を含有していることも被申請人のデータとして出されている。そして、右ガスがどのような物質のどのような化学変化で発生してくるものであるか、例えば搬入物に対する監視を徹底して生ゴミの埋立を完全に防止すればガスの発生はなくなるものであるのかどうかについては究明されていない。

(3) その他の修正診断の記載内容に対する若干の疑問

ア 修正診断においてなされている先行埋立地の実情調査報告は、これによつて北部埋立事業計画に対する住民の不信を取り除く担保として、教訓的に生かす目的を有するとされているが、証人畔上統雄の証言(第二回)によると、右調査の内容は、先行埋立地周辺住民のうち、反対連動のリーダー格等最も問題意識の高い住民を全く対象に入れず、無作為的に、例えば右埋立地付近の喫茶店に立寄つて、居合わせた客と世間話をするなかでその感想を聞くという程度でしかなされていないことが疎明されるので、そうするとかかる調査がその目的に適合するものであつたか否かについては大いに疑問と言わざるを得ない。

イ 先行埋立地について修正診断が依拠したデータのほとんどは、被申請人において過去に実施した検査の際記録、収集したものであつて、プランド自らは改めてそのような検査を行いデータを収集のうえ検討する立場にはなかつたことが証人畔上統雄の証言(第二回)によつて疎明されるのであるが、そうすると修正診断は限られたデータを、十分な検討を経ないで基礎としたものであることになり、その全体の信用性についても疑問が残る。

ウ 修正診断八ページの説明について

そこでは、「北部埋立地(本件予定地を指す。)の適地性評価と用地取得交渉条件についてはすでに広島市当局と地権者、並びに地域住民との間に取交されている説明と約束によつて確定している。」とあるが、そのうち少なくとも本件予定地の適地性評価が確定しているとの部分は、それが行政的見地のみの判断であるとしても、修正診断が作成された昭和五一年一一月の時点では本件申請人らの総数及び弁論の全趣旨からみて明白な誤りと言わねばならない。

エ 同三六ページの説明について

そこでは「戸坂及び三滝埋立地におけるボーリング調査によつて、サンドイッチ工法による埋立地について、構造的な安定性が十分に確保されていることが判つた。」とされているが、これは、同七五ページの「戸坂埋立地において大量の覆土の投入を必要とする地盤沈下があつた。」との記載と矛盾すると考えられる。

オ 同一一七ページの説明について

そこでは、「裁判の争点ともな“地域住民の生活環境被害”が住民の受忍限度を越えるか否かの議論は、(戸坂及び三滝埋立地)周辺の都市化の状況、利便性の拡大からすればその重要性が認められない。」とあるが、その表現のとおりに解する限り、修正診断は環境問題に対する基本的な問題意識を欠如しているものと言わざるを得ない。

カ 同一五三〜一五四ページの説明について

そこでは、戸坂埋立地の跡地利用計画としての戸坂中学校建設について、「学校環境としての立地性は優れている。」とあるが、それは、同校が学区内の住宅街に近く通学に便利であるとの側面のみを過大に評価したものであつて、前記のガス噴出及びこれに伴う在校生、卒業生に対する定期健康診断の実施並びに戸坂新町小学校新設中止という事実に照らすと、成長期にある生徒児童に真に必要な教育環境は何かという視点が欠落しているものというべく、この点に関する証人畔上統雄の証言(第二回)を仔細に検討してみても、なお理解し難いところである。

キ 先行埋立地において採用されたサンドイッチ工法の施工について

修正診断は、本件施設についてもサンドイッチ工法によることを強く推しているが、前記のように先行埋立地における環境汚染の大きな原因となつたと推定される同工法の施工上の誤りについて触れた部分が全くない。

(4) 証人小島丈児の証言について

修正診断の内容と関連して、ここで同証言について検討する。

同証言による疎明によれば、同証人は、現在まで二〇年以上広島大学理学部教授の地位にあつて岩盤地質学を専攻し、被申請人の設置した廃棄物処理技術検討委員会の委員として、被申請人の環境事業局の技術的対策について諮問を受けて意見を具申する立場にある者であるが、同委員会で本件計画を協議の対象としたことはなく、本件予定地については右委員としての地位を離れて二日間現地踏査をし、瀬野川埋立地についても現地に赴いて調査をしたうえで証人尋問に臨んだものである。

従つてその証言内容は、専門的知識に基づきかつ公正な立場からなされたものとして信用性の高いものと評価すべきである。なお、本件予定地については詳しい調査をしていないため、必ずしも断定的な表現を採つていない。しかしながら、同証人の証言に照らせば、少なくとも、地質学の見地からは、修正診断の内容が極めて不十分であつて、プランドが地質学に通暁したスタッフを擁していないことが窺えるのである。

(三) 本件施設建設によつて戸山地区に予想される被害

(1) 水質汚濁

本件施設からの処理水が吉山川に放流された場合、仮に右処理水が被申請人において予定している水質を有しない場合はいうまでもなく、これを有する場合であつても、同川の流量及び浄化能力によつて、従前の前記環境基準のAA類型を保持できるとは到底考えられず、また仮に被申請人が予定する右環境基準のA類型を保持し得たとしても、飲料水をはじめその生活用水のすべてを同川に依存している申請人ら戸山地区住民の生活は根本的な変容を余儀なくされるおそれがある。

次に、本件施設から汚水が浸出し、これが土壌及び地下水を汚染する蓋然性は、前記先行各埋立地の例と戸山地区の地質に鑑みこれを否定できないところであり、その汚染の内容も生体にとつて最も危険な重金属汚染が予想され、かつかかる汚染による被害が長期間に及び、かつ当該汚染からの回復が不可能に近いことも前記のとおりである。

さらに、〈証拠〉によると、申請人ら主張のとおり、本件予定地付近に土石流の発生が懸念されること、右発生時には本件施設の埋立物が下流に広汎に拡散されるおそれがあることも疎明される。

そうすると本件施設建設によつて予想される水質汚濁の被害は、申請人ら戸山地区住民に対して、飲料水や農作物の摂取を通じて、その生命・身体にも影響を及ぼすおそれが大きいと言わねばならない。

(2) 大気汚染

〈証拠〉によると本件施設建設予定地の近くには若干数の民家があり、またその下方に戸山小中学校が存在することが疎明され、前記戸坂及び三滝埋立地における被害の発生並びに瀬野川埋立地におけるガスの発生から考えて大気汚染による被害の及ぶ可能性が推認され、さらに前記逆転現象によつて汚染された大気が戸山地区の民家集落地域に集中して停滞する蓋然性もまた高いと考えられる。

そして、一定程度以上の大気汚染が人の健康にとつて好ましくないことは公知の事実である。(公害対策基本法及び「大気の汚染に係る環境基準について」―昭和四八年環境庁告示第二五号―等参照)

(3) 環境破壊

前記先行三埋立地の例に照らすと、戸山地区における県道が通学路になつており、これがまた搬入経路と予定されていること等から、申請人ら主張のような被害発生の可能性は否定できないところである。

三同4(二)(用地選定の不合理性)について

〈証拠〉によると、以下の事実が疎明される。

1  即ち、被申請人の当時の担当部局たる清掃局において、本件予定地がゴミ埋立地の候補地としてあがつたのは、昭和四九年三月か四月ころであつて、そのころ、同時に候補地としてあがつており、かつ乙第二八号証(成立に争いがない。)に記載のない可部町大林の山林は同年一〇月ころ、当時の広島市役所可部支所長梶山某が広島市会議員選挙に立候補する予定に絡んで政争の道具になりそうであつたこと及び地元住民の意向として反対である旨の申し入れがあつたことでいとも簡単に予定を中断したものの、昭和五〇年一月本件施設に関する地元説明会において、被申請人は、右大林の山林、高陽町大谷、安佐町長沢及び沼田町瀬戸の計四か所を埋立可能な候補地としてあげており、一方、右沼田町瀬戸の候補地は同月一〇日、所有者である伊藤忠不動産株式会社から被申請人に対しゴミ埋立地等として無償で提供し、造成後返還するとの約定で申し入れがあつたものであるが、同年二月二二日、被申請人は本件につき戸山地区住民と折衝中で、人心の混乱及び折衝に支障をきたすおそれがあるとして一旦断りながら、同年三月二二日あらためて受け容れを申し入れ、昭和五三年三月同社もその方向で具体的な折衝を開始しようとしたところ、同月末日になつて被申請人は本件施設建設を前提として沼田町内にゴミ処理施設が複数建設されることになるという理由で再びこれを断つた。なお、右経過はその後昭和五三年一〇月に至り被申請人の議会における審議を通じて初めて一般市民の前に明らかとなつたものである。

2  次に、本件予定地については従前からゴルフ場の予定地として買収計画が進められていたことがある関係で、当時の広島市役所沼田支所長岡田三千夫が同じく用地課主幹山本武司に対し、一括買収が容易である旨伝えており、このことが被申請人の本件予定地選定の強い動機となつたと考えられる。ほかに、右四か所の候補地に比べ本件予定地がゴミ埋立地として特に適していると考えられる理由はない。

四同4(四)(環境アセスメントの欠如)について

環境アセスメントの理念について仔細に検討することはひとまず措くとしても、前述のように、被申請人は先行の各埋立地に関する総合的な科学調査及び検討をしていないこと、本件予定地を選定する旨の決定は、地元住民の意向を全く顧慮することなくなされ、しかも早急に搬入を開始することが予定されていたこと、本件予定地の調査は不十分なままでその結果の公表は本件施設の建設を前提として専ら戸山地区住民を説得するためになされたものであること、被申請人は他の候補地がありながらひたすら本件予定地に固執して譲らないこと(この点は弁論の全趣旨から明らかである。)等から考えると現在まで申請人らが主張するような代替案の検討を含めた環境アセスメントが未だなされていないことは明らかである。(しかし、当裁判所は、後記のとおり、申請人らが主張するところの環境アセスメントの内容及び実施の要否について論評する立場にないので、ここでも右にいう環境アセスメントをすべきことを前提としたものではない。)

第二当裁判所の判断

一本件施設の建設自体の差止について

判旨1 本件施設建設によつてもたらされる被害

前記各先行埋立地における実状等からみて、本件施設についても、被申請人において予測できていない環境汚染をもたらす可能性があり、またこれを予測し防止対策を講じた場合にもこれが十分かつ有効に機能するとは必ずしも言えないところであり、さらに一旦環境汚染が発生した場合、それは申請人ら戸山地区の住民の生活全般に影響を及ぼすのみならず、その生命や身体にまで被害が及ぶという最悪の事態を生ぜしめる蓋然性が高く、しかも長期にわたる回復の著しく困難な汚染になるであろうこともまた、十分推定され得るところである。(本件のようないわゆる嫌忌施設の建設の差止がそれによつてもたらされる環境汚染の有無及び程度を争点とし、特定の個人としてではなく地域住民一般により求められているような場合、右環境汚染による被害の予測も地域的包括的になされれば足り、地域住民個々人の次元においていかなる被害が具体的に発生するかという予測までは必要としないと解すべきである。蓋し、環境汚染という事の性質上、それが個々人の次元で誰にいかなる被害を及ぼすかは本来予測できるものではないから、一定程度の環境汚染の地域的包括的な予測が疎明されれば、それは即ち地域住民個々人に被害を及ぼす蓋然性が認められるという意味で当該個人の権利、即ちその人格権を侵害するおそれがあると言うことができるからである。)

2 戸山地区の地域性

戸山地区が極めて自然に恵まれた環境下にあり、同地区の住民がその自然と非常に密接な関係を保つて生活していることは前認定のとおりであり、前掲他の諸候補地を差し置いてここに本件施設を建設する必然性も現時点では認められない。

もつとも、同地区についても、将来、産業立地が行われ、交通網が整備されることに伴う住宅団地の造成等によつて、現在の住民の生活形態が大幅に変容させられるに至る可能性は否定できないところであるが、少なくとも現在及び近い将来においては、本件施設のように広汎かつ急激に公害を発生する可能性を有するものの立地に適合する地域でないことは明らかである。

3 被申請人の対応

本件予定地の決定が被申請人において一方的になされたもので、かつ早急な搬入開始が予定され、以後の地元説明会も住民との協議によつて本件予定地に本件施設を建設することの適否を検討する目的で開催されたものではなく、右建設を既定の事実として住民を説得する場に過ぎなかつたこと等前記の対応のほか、本件審理の過程において判明した前記伊藤忠不動産株式会社所有地の問題、さらに本件審理において申請人らが最も立証に力を注いだ先行各埋立地における環境汚染の問題について、これを真剣に調査し、可能である限度でその反証を提出するというような積極的な訴訟活動が被申請人には終始見受けられなかつたこと及びそれにもかかわらず、本件予定地のみが適地であるとしてきた被申請人の応訴姿勢はいずれも当裁判所に顕著である。

(もつとも以上のことは、被申請人においてこれまでなされてきた、ゴミ減量化等の行政努力とこれに伴う本件施設に関する計画の修正やプランドに対する計画の診断の委託及び第一次診断の公表並びに第二次環境調査を実施した場合には再びこれを公表し、地域住民や専門家の批判にさらしたうえで最終的方針を決定することにする旨の言明公約といつた被申請人がとつてきた清掃行政改善に向けての努力を度外視している趣旨でないこと勿論である。)

4 本件施設の公共性について

本件施設のような清掃施設が公共性を持ちかつ地方公共団体の清掃行政にとつて重要なものであることは被申請人の主張をまつまでもなく公知の事実として明白であるが、前述のような本件施設によつてもたらされることが予想される被害の内容と程度、本件予定地選定の必然性(即ち、本件予定地が最適地であるということ)が認められないこと等に照らせば、本件申請の適否を審査するにあたつて右公共性の問題にまで深く立ち入つてこれを検討する必要はないと解すべきである。

5 従つて、以上審究した点を総合すると、本件施設の建設により、申請人ら戸山地区の住民に回復困難な被害の生ずる蓋然性が極めて高いのであるから右建設自体の差止を求める申請人らの本件申請部分はその余の争点につき仔細に検討するまでもなく、被保全権利(人格権)の存在と保全の必要性が認められるので、これを認容することとする。

二第二次環境調査を含む準備作業の差止について

1  申請人らのいう「準備作業」の中には被申請人主張の第二次環境調査が含まれていること、そして右調査は被申請人を主体とし、修正診断に基づいて、本件予定地とその周辺のみを対象とするものであることは弁論の全趣旨によつて明らかである。

2  本件のようないわゆる嫌忌施設の建設にあたつて環境アセスメントを実施すべきか否か、またその内容如何については、我が国の現在における諸事情に鑑み、これを確定することは極めて困難であるうえ、はたして司法機関がその権限及び能力を有しているか否かについても疑問の存するところである。

しかしながら、被申請人が揚言するように、本件施設建設に先立つての第二次環境調査が我が国の環境行政の先駆となるべく、右調査結果に基づいて本件施設に伴う環境保全対策を具体化して公害発生の予防に万全を期し、かつその結果を公表して申請人ら住民の批判にさらし、結果如何では本件施設建設の中止をも考えるという目的に適うものであるためには、第一に前記先行各埋立地における環境汚染のうち少なくとも本件審理において指摘されたものについて、科学的にその有無及びゴミ処理との因果関係を可能な限度で調査分析し、これに基づいて本件計画の具体的な細目について再検討すること、第二に、右調査分析と本件予定地に関する調査は総合大学等公平な第三者としての立場にあつてかつ総合科学的な調査能力を有すると考えられる機関の関与を得て行うこと、第三に右各調査においては、地域住民からの情報収集に留意すること(このことは環境汚染について必ずしも完全な科学的解明に至つていない現在、地域住民の経験的知識も尊重されるべきこと及び従来被申請人が地域住民の指摘に対し必ずしも積極的に応じていなかつたことの二点から重要と考える。)第四に右調査は、戸山地区においてはその住民の生活実態等をも対象とした総合的かつ具体的なものであることが最低限の要請であると考えられる。

(第一の事項については、これに多大の人員、期間及び予算等を要することになることに思いを致すと、被申請人が今後本件予定地又はこれ以外のゴミ処理候補地について新たに同種施設を建設しようとする場合、本件同様の問題に逢着して難渋することも予測されるが、被申請人は本件申請があつて今日まで、少なくとも本件審理への対応に必要な限度での先行埋立地の調査さえもしてきていないこと、被申請人の主張によれば、遅まきながら各種審議会及び委員会を設置しており、これが右事項を達成する下地を形成するものと期待されていること等の点から考えて、被申請人が新しい清掃行政を標榜する以上、右事項達成の困難を云々することは相当でないと思われる。)

3  そうすると第二次環境調査として被申請人が予定しているのは現在のところその目的からみて甚だ不十分であり、その内容も本件施設建設によつてもたらされると予想される被害の予測にとどまると考えられることからして、これが本件施設建設の準備作業としての意味しか持たないとする申請人らの指摘は首肯できないこともないが、これをも本件施設建設の準備作業として直ちに差し止めることは次の点からなお躊躇される。

即ち、本件全疎明によるも、被申請人主張の第二次環境調査の実施それ自体から、戸山地区において、本件施設を建設した場合と同様の前記のような重大な被害が生ずるおそれがあるとの事実は認めるに足りないばかりか、右の第二次環境調査は、その方法・項目・期間のいずれにおいても確定したものではないと考えられ、被申請人の今後の対応如何によつては、当裁判所があげた前記諸要請を満たす調査がなされることもありうる以上、今直ちにこれをも一律に差し止めることは相当でないし(その意味では申請の趣旨第一項にいう「準備作業」は必ずしも十分に特定されているとはいい難い。)、かといつて、本件施設建設の準備作業の一環としての調査のみを客観的に特定してこれのみを差し止めるとすることは不可能である。(いわゆる環境アセスメント法が定立されていない現在、その先取をして、ありうべき環境アセスメントを前提として右特定を試みることは裁判所の権限に属さない。)

従つて、申請人らが本件施設建設の「準備作業」まで差止を求めている部分は失当として却下を免れない。けだし、申請人らのいう「準備作業」が、本件施設建設を前提とした純粋の準備行為(例えば、所要工作物設置のための基礎工事あるいは材料運搬等)であるとすれば、建設行為自体を差し止めることによつてその目的を達し得るはずであるし、いわゆる環境アセスメントのための立ち入り調査等も含むとすれば、その差止をも求めることは前述した理由により相当でないと言わなければならないからである。

第三結論

以上の理由から、当裁判所は、本件施設の建設によつて、申請人らの人格権(申請人ら主張の被保全権利は選択的なものであると解する。)が侵害されるおそれがあり、かつ保全の必要性のあることが疎明されたものと判断し、第二次環境調査の差止を求める部分は被保全権利の疎明がなく失当であると判断し、その余の判断を省略して、保証を立てさせないで申請人らの申請を主文掲記の限度で認容し、その余を却下することとし(公示を求める部分についてはこれを不適切かつ不要なものであると解する。)、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(植杉豊 山崎宏征 橋本艮成)

別紙(一) 当事者目録〈省略〉

別紙(二) 北部埋立地基本計画書〈省略〉

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